ウェブアクセシビリティセミナー
「JIS X 8341-3:2010を活用したウェブアクセシビリティの普及を目指して」

ウェブアクセシビリティ推進協会セミナー 開催記録

開催日時

2010年9月22日 10時~17時

開催場所

講演中の会場の様子

東洋大学白山キャンパス 3303教室

イベント報告

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10時~11時10分

「ウェブアクセシビリティを必要とする障害者のニーズ」
NTTクラルティ株式会社 小高 公聡氏

小高 公聡氏の講演の様子

自己紹介および職場環境

4歳の時に網膜色素変性症と診断された。視野狭窄だったが10年ほど前から次第に中心部の視力が落ち、現在は光が分かる程度。現在は、パソコンの画面読み上げソフトを使って仕事をしている。所属するNTTクラルティは、日本電信電話の特例子会社であり、様々な障害、特に視覚障害者と聴覚障害者が一緒に働いているのが特徴。会議の仕方などに工夫を重ねながら仕事を進めている。

障害者とパソコン・インターネット

様々な障害を持つ人が、どのような方法でパソコンを使っているかが紹介された。
また、障害者がパソコンを使うことにより、生活が大きく変わることを説明された。特にメール、メッセンジャーが使えると、連絡や問い合わせが非常にしやすくなる。外出が難しくても、ネット利用で、様々なことが自宅でできる。ただし、これらの効果は、ウェブアクセシビリティへの配慮があって初めて有効になると指摘された。

デモンストレーション

音声読み上げソフトを用いた、サンプルウェブページの読み上げデモが行われた。Altの不備や、文字レイアウトの体裁と整えたときの弊害、それらをスタイルシート化することによって回避した例など、アクセシビリティの問題例と配慮例が紹介された。また、音声ガイドのデモでは、映画「西の魔女が死んだ」の音声ガイドを再生し、視覚障害者にとっての音声ガイドの有効性、必要性の説明がなされた。

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「高齢者のつぶやき」
NPO法人イー・エルダー 鈴木 政孝氏

鈴木 政孝氏の講演の様子

自己紹介

眼底出血の手術で左の視覚に障害が発生。読書、パソコン利用に支障があるががんばっている。

高齢者にとって望ましいサイト、情報提供とは

ナビゲーション、文字サイズ変更、配色・コントラストの配慮、地図情報の配慮、電話番号の表示、入力画面での配慮などにおいて、高齢者の立場から、ウェブサイト制作で配慮してもらいたい事柄が説明された。

障害者・高齢者による適合性評価について

高齢者、障害者によるウェブサイトの診断や確認を取り入れてほしい、在宅障害者の就業支援にもなると訴えられた。事例として、デンソーでは2006年から障害者によるサイト診断を実施し、アクセスが増加。クレームもなくなったことが紹介された。

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11時10分~11時50分

「ウェブアクセシビリティを求める世の中の動向」
山田 肇理事長

山田 肇理事長の講演の様子

JIS規格の制定と国際標準化について

高齢者・障害者配慮設計指針JIS X8341-3は2004年に制定。すぐに国際標準化に取り組み、世界に貢献・リードしてきた。JISが国際標準規格に反映された後、改めて国際標準規格を翻訳しJIS規格を改定した。これは、日本だけの知恵でなく、世界の専門家の知恵を借りてJIS規格を改善するという考え方であることが説明された。

公共調達要件化の重要性について

米国ではアクセシビリティ配慮を連邦政府調達要件化し、大手企業も含め対応が進んだ。欧州でも公共調達での利用を目指して、情報アクセシビリティの標準化作業が進行中。
これらは、主流製品のアクセシビリティ対応の限界線を政策的にずらし広げることであり、中長期的には国民全体の利便向上や、ICT産業の競争力強化にもつながることと説明された。

日本の政策動向について

最近の政府の政策検討における、ウェブアクセシビリティ関係の提言や検討、言及の状況について説明された。

  • 電子政府ユーザビリティガイドライン「共通設計指針」への組み込み。
  • 総務省タスクフォースの地球的課題検討部会では、アクセシビリティ要件を取り入れた公共調達法の必要性を訴え、中間とりまとめでも「要件化を推進」という文言が入った。
  • 障がい者制度改革推進本部「基本的な方向について」での言及。
今後の課題と動きについて

JISX8341-3改定版は、実装が難しいという課題があり、普及のためには様々な取組が必要になると説明し、最近の動きが紹介された。

  • 公共団体のサイト運用で必要な取組について「みんなの公共サイト運用モデル」改定作業が進行。
  • JWACでは、日本のウェブアクセシビリティ品質を向上させるための活動や情報提供を進める。
  • 日本のウェブアクセシビリティ普及の動きは、第2段階に移行した。

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13時~14時10分

ホームページのバリアフリー化の推進に関する調査結果
総務省行政評価局 根上 純一氏 (松田氏、久我氏)

行政評価局の紹介

行政評価局は質の高い行政を実現するため政府のレビュー機能を担っていること、調査結果に基づいた勧告だけでなく、改善措置のフォローアップも行うこと等が説明された。

調査の背景、認識

  • すべての人が情報にアクセスできることは重要で、国の役割は大きい。
  • 今回の調査の根拠は電子政府推進計画であり、ここでJIS X8341-3に沿った情報アクセシビリティの確保が定められている。JIS改正後の各省対応に活かすことも考慮して、調査を実施した。

調査方法等

  • 34機関のウェブページ1514ページについて、JIS X8341-3(2004)箇条5への対応状況を調査。また運営体制は箇条6に基づいて調査した。

調査結果

  • 見出し設定、キーボード操作、代替テキスト等の必須項目でも非対応箇所が見られる。
  • 運営体制にも多くの機関で不十分な点がある。
  • CMSの導入が進んでいるが、JIS対応チェックができるCMSを導入している例もある。
  • 詳細な結果は、行政評価局ホームページで報告書を公開している。
  • 調査結果に基づき、各府省はJIS X8341-3を踏まえて、ホームページのバリアフリー化にしっかり対応する必要がある。

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Yahoo! Japanにおけるウェブアクセシビリティ
ヤフー株式会社 中野 信氏

Yahoo!Japanの取り組み

Yahoo!Japanは利用者数が多く、公共性が求められる場合があるため、サービス品質を担保する様々な施策に取り組んでいることを説明された。

主な取り組み

  • PDP:独自の開発プロセスガイドラインであり、アクセシビリティの検討、検証がこの中で規定されている。
  • UIガイドライン:ユーザインタフェースの品質に関するガイドラインであり、この中に、アクセシビリティ、ユーザビリティの内容を含む。アクセシビリティについては、WCAG2.0、JISX8341-3:2004を一部取り込んでいる。
  • QA、校正:UIガイドラインに基づく検証・確認(QA)、表記・文章の確認と校正を行っている。

施策の実践例として、Yahoo!検索での取組についての紹介

  • 検索については、Yahoo推奨ブラウザ以外の下位ブラウザ、ゲーム機にも対応。
  • 端末により入力デバイスが異なるため、それらに対応(UIの出し分け)
  • 端末により画面解像度や仕様が異なるため、それらに対応

OneSeRPプロジェクト(Yahoo!検索サービスのユーザビリティ、ユーザエクスペリエンス向上を目指すプロジェクト)における取組

  • UI統一、共通化:言葉で機能を説明し、予備知識なくても理解できるようにする。
  • コーディング時のワークフロー:ページ要素のモジュール化(ルール統一)、共通のコーディング・オーサリング仕様策定、コアメンバーレビューの実施
  • コーディング・・・セマンティックなマークアップ等、アクセシビリティに沿った施策
JIS X8341-3との関係

紹介した取組等により、対応のためのワークフロー等の基盤はできたこと。また、現時点の適合度は「配慮」だが「準拠」を目指して次のような取組を進める計画が紹介された。

  • JIS X8341-3:2010との整合性確認
  • 適合試験導入をYahoo!検索で実施
  • その後、他検索サービス等へ展開

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14時10分~15時

JIS X 8341-3:2010の概要
日本電信電話株式会社 渡辺 昌洋氏

渡辺 昌洋氏の講演の様子

JIS X 8341-3:2010公示までの経緯

1999年、W3Cが初めてアクセシビリティのガイドライン(WCAG1.0)が勧告されてから、漢字文化など日本のアクセシビリティの問題を盛り込んだWCAG2.0の勧告を経て、それらを取り込むかたちで、JIS X 8341-3:2010が先月(H22.8.20)公示されるまでの経緯についての解説があった。

JIS X 8341-3改正の方針

WCAG2.0と内容的に同等となるように様々な表現等の工夫がなされたこと、JIS X 8341はシリーズなので、共通指針であるので、JIS X 8341-1との整合性を保ったこと、また、旧規格との連続性を重視し、必要に応じて比較表を設けていることなどが説明された。

JIS X 8341-3:2010の特徴

1つめは、試験可能(testable)である点。具体的な達成基準を規定していて、それに対してどのようなテストをしてどういう結果であれば達成している/いないを明確化している。2つめは、技術非依存であること。日進月歩のWEB技術のなかでも恒常的な規格となるよう、規格上は具体的な実装方法は記載していない。なお、具体的な実装方法については、W3Cから提供されている技術情報参照するようガイダンスしてある。
3つめは、目指すレベルを設定できる点。A、AA、AAAの3種類の達成等級があり、Aは最低限、AAAは対応できる場合もある。

JISおよびWCAGの関連文書

JIS X 8341-3:2010を深く理解するためのJISおよびWCAGの関連文書の紹介があった。参考情報としては、WCAG2.0の理解をサポートするUnderstanding WCAG 2.0や、それらの実装方法に言及したTechniques for WCAG 2.0などがあり、これらの日本語訳が、ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)のサイトから公開されていることなどが紹介された。

PDF資料を別ウインドウで開きます講演資料(PDF 367KB)

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15時20分~16時10分

JIS X 8341-3:2010に基づいたウェブの試験方法
富士通デザイン株式会社 近藤 真太郎氏

試験の基本的な流れ

JIS X 8341-3:2010に基づいた試験の流れについての1例が紹介された。

  1. 目標とするアクセシビリティ達成等級を設定し、達成基準チェックリストと実装方法チェックリストを作成する。実装方法については、WCAG 2.0解説書、WCAG 2.0 実装方法集、アクセシビリティ・サポーテッド情報の参照などを参考にする。
  2. 試験対象の特定として、ウェブページ単位で試験するかウェブページ一式単位、つまりサイト全体として試験するかを決定する。ページの選択方法などは規格票に記載してある。
  3. 1.で準備したチェックリストに従って試験を行う。
  4. 試験結果を表示する。
サンプルページを用いた試験例

等級A 達成基準「7.2.4.1 ブロックスキップ」を例に、実際に、サンプルページを用いた試験方法について以下の実演とともに解説がなされた。また、実演には、Web Accessibility Toolbarや、WebInspector 5.1が補助ツールとして利用された。

  • WCAG 2.0解説書の2.4.1の実装方法として、「G1: メインコンテンツエリアへ直接移動するリンクを各ページの先頭に追加する」「H69: コンテンツの各セクションの開始位置に見出し要素を提供する」とある。
  • 今回は、G1,H69noどちらかを実装していれば適合していることとする。
  • まず、このG1の解説を参照すると、チェックポイント1.-4.が記載されているので、それぞれのチェックポイントが満たされているか目視確認する。
  • (今回のサンプルでは、)3つ目のチェックポイントに合致しない。このチェックポイントの判定基準には、1.-4.のチェック全てを満たしていることとあるので、G1の条件を満たしていないということになる。
  • 同様にH69についても、条件を満たしていないことを確認した。
  • G1、H69いずれの条件もみたしていないことから、このサンプルの箇所については、「7.2.4.1 ブロックスキップ」の項目を達成していないと判断できる。
よく見られる不適合実装例およびまとめ

よく見られる不適合実装例として、情報を伝える画像がCSSで指定されており、CSSを表示できないケースでは、情報を受け取れない例。画像上のテキストと代替テキストが不一致で、読み上げツールなどでは、不平等な情報となってしまう例。アイコンのalt属性と隣接するテキストに同じ内容にしてしまったため、読み上げツールで同じ内容が2度繰り返されてしまう例などが紹介された。
まとめとして、評価ツールによるシステマチックな判断だけでなく、試験実施者が目で見て判断する必要性がありコスト高となるものの、基準が明確となり共通のルールができたことで、客観的にアクセシビリティの品質を評価できることとなっていることの説明がなされた。

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16時10分~16時30分

ウェブアクセシビリティ推進協会/品質維持向上部会、普及啓発部会の活動紹介

浅野 陽子氏の講演の様子
伊藤 智之氏の講演の様子

日本電信電話株式会社 浅野 陽子氏
富士通デザイン株式会社 伊藤 智之氏

ウェブアクセシビリティ推進協会の中に、2つの部会について、活動紹介がなされた。いずれの部会もこれから立ち上げていくので、現在メンバーを募集中であり、今後の具体的なアクションプランも参加メンバーで協議しながら進めていくという説明がなされた。

品質維持向上部会

目的: JIS規格に則ったウェブの実現するために、情報やしくみを整備し、アクセシビリティ品質全般の維持向上をサポートする。

活動案: JISやWCAGの技術文書に精通していない立場で、JISを実際に適用する上で理解を深めるためのケーススタディを行う。また、欧米の規格や先行事例などの調査も行う。これらの活動を通じで、将来的には、認定制度、認証制度などの提案も行っていきたい。

普及啓発部会

目的: JIS X 8341-3:2010を基盤としたウェブアクセシビリティを、ウェブの管理者や制作者等を中心に、世の中に広く普及させること。

活動案: アクセシビリティ関連する役立つ情報を収集・紹介、およびウェブの管理者や制作者を対象としたセミナーを開催して、アクセシビリティ普及につとめる。また、主要サイトの対応状況調査し、ベストプラクティスの紹介を行いたい。

PDF資料を別ウインドウで開きます講演資料(PDF 1.38MB)
PDF資料を別ウインドウで開きます講演資料(PDF 149KB)

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