ウェブは、すでに社会生活に不可欠なインフラであり、ウェブを利用した経済活動も盛んになっています。このウェブは、高齢者・障害者の日常生活向上、社会参加の機会拡大・就業支援に大きな役割を果たす重要な生活ツールのはずですが、国内標準に準拠したウェブは未だに少なく、現実の普及には多くの課題があります。
ウェブを利用する、制作する、提供する等立場は違っても、ウェブはすべての人にとって使いやすいものであるべきという理念に賛同する団体や企業が集まり、同じ目的を持って活動する場を提供するため、特定非営利活動法人ウェブアクセシビリティ推進協会を設立しようと、私たちは決意しました。この法人は、高齢者・障害者を含めできる限り大勢の人々がウェブの利便を享受する社会を実現するため、ウェブアクセシビリティに関する国内標準(JIS X8341-3)を基盤として、アクセシビリティの高いウェブを広く普及することを目的としています。
期を同じくするように、原口一博総務大臣が組織した「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」では、省庁が提供するウェブサイトでアクセシビリティを要件化する方向に議論が進んでいます。そこで、このタスクフォースをリードされている、内藤正光総務副大臣をお招きして下記の通り、発足プレイベントを開催することにしました。ウェブの利用者、制作者、提供者をはじめ皆さまのご参加を心よりお待ちします。
イベント概要
開催模様
多くの方の参加をいただき、講演後の質疑応答や協会への提言を含めて活発な意見交換が実施されました。
開催日時
2010年4月23日金曜日 午後6時30分から8時30分まで
会場
- ・住所
- TKP大手町カンファレンスセンター WESTカンファレンスルームC
(〒100-0004 東京都千代田区大手町1-1-2 りそな・マルハビル18階)
イベント報告
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午後6時30分
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午後6時40分
内藤正光総務副大臣
「ウェブアクセシビリティの推進を政府の施策に」ウェブアクセシビリティの取り組みについて紹介していく。
新政権の発足によって、徹底的なICTの利活用を推し進め、豊かな情報社会の実現をしていこうとがんばっている。
具体的には、行政の分野、医療の分野、教育の分野、環境の分野である。
また、電子書籍の推進も取り組んでいる。そういったものを推し進めようといった中では、やはりユニバーサルといった観点が大変重要になってくると思っている。
特に、行政情報については、国民生活に密接に関係しているため、公平で利便性の高い電子行政を実現することが非常に重要であると考えている。新聞等で掲載されたが、IT戦略本部で戦略骨子というものを決定した。
まだ事務的な段階ではあるため、ゴールデンウィーク明けに戦略本部が正式に開催され、その戦略骨子が決定される。
その中で、「国民本位の電子行政の実現」というものをしっかりと明記させてもらった。国民本位といえば、あらためて言うまでもないが、高齢者あるいはチャレンジドも本当にストレスなく電子行政にアクセスできるといったものを作り上げていくといった意味である。
そして、総務省としてもタスクフォースというものをいくつか運営させてもらっているが、山田先生にも参加いただいて公的機関のウェブアクセシビリティ確保の取り組みを推進することの重要性が熱く議論されているところである。また、総務省の動きを紹介しますと、「みんなの公共サイト運用モデル」のバージョンアップ、全面的見直しを今年度進めていき、全国の公共機関におけるウェブアクセシビリティの向上を目指して「アクセシビリティの評価ツール」を開発していく。
この評価ツールによって、ウェブアクセシビリティの実態が分かってしまい、当然、低い評価を受けたところは頑張らなければいけないということで、よりアクセシビリティの度合いを向上させていくことを目指しての評価ツールである。
そして、他方で、民間もがんばっていただかなければならない。しかし、お金がかかる等の問題があるため、民間事業者が行う情報通信サービスの提供や技術開発に対して様ざまな助成措置を行なっている。
具体的には、ウェブサイトの音声読み上げ支援サービスを提供している事業者に対しては、2分の1を上限としてその経費を助成させていただいている。
また、研究開発においても、例えばカスタマイズ可能な音声読み上げのブラウザの研究開発においても2分の1を上限としてその経費を助成させていただいている。そして、加えて、国際的な取り組みとして評価をしていただいても良いかと思うが、電子通信機器・サービスに関するアクセシビリティガイドラインの国際的標準化も総務省としては先頭に立って進めてきた。
具体的には、電子通信機器あるいはサービスの提供者が、企画、開発、設計、製造等を行う際に配慮すべき事項を記したITU-Tというものがあるが、その勧告、具体的には790番ですが、「高齢者・障害者に対する電気通信アクセシビリティガイドライン」を我が国日本が率先してリードしてきた。そしてその結果国際標準として成果を得た。これらの取り組みを通じて、ICTの利用機会及び活用能力の格差が生じないよう、ウェブアクセシビリティ確保も含め、情報バリアフリー環境の整備を行なっていきたいと思っている。
最後になりますが、豊かな情報化社会の実現のためには、高齢者もチャレンジドも誰もがみな、電子行政を含む様ざまな情報にアクセスできたりといった環境の整備が必須であると考えている。
総務省としても全力をあげて取り組んでまいりたい、少なくとも公的機関においては、なんだこの程度かと言われないようにウェブアクセシビリティの向上に取り組んでいきたいと思っている。
(会場にいらっしゃる)皆様方の活動によって、ますますこの重要性が全国民に認識されることとなっていくでしょうが、これからは山田理事長をはじめとする貴組織とともに連携していきながら、この国をより豊かなものにしていきたい、そのことを互いに誓い合いながら、私のお祝いの言葉にさせていただきたい。本日は本当におめでとうございます。ありがとうございます。
※上記の動画はWindows Media Playerでご視聴できます。Windows Media Playerのインストールがお済みで無い方は、下記のサイトからダウンロードして下さい。
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午後7時00分
山田肇理事長あいさつ・当団体の設立趣意説明
「ウェブアクセシビリティ推進協会の概要」■山田理事長のウェブアクセシビリティに対する想い
・情報社会のロビンソン・クルーソーを作りたくない
現代の情報社会の中で、その情報に様ざまな理由でアクセスすることができずに、経済的な損失や社会参加の機会を失っている「情報社会のロビンソン・クルーソー」を作りたくない、一人でも減らしたい。
このことを10年間繰り返し言い続けてきた。また、これを「総合政策」として政策にしてほしいとも言い続けてきた。・原口タスクフォースでの主張
アメリカでは、調達においてアクセシビリティは法制化されている。
これを日本においても公共調達法として立法化したい。
実際に、環境分野においては、「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(グリーン購入法)」の前例があり、アクセシビリティにおいてもこれに倣い、法制化していただきたい。・なぜウェブなのか
情報通信機器・サービスの中でウェブは重要な基盤となっている。
また、障害者の情報取得手段としても、以前とは違い、高い利便性がある。■ウェブアクセシビリティ推進協会の概要説明
ウェブを利用する人々、ウェブを制作する人々、ウェブを提供する人々、あるいはそれ全体を国家政策として考えている人々、様ざまな方々が参加して、みんなで協力しながら、ウェブを全ての人が利用できるものにするために役に立つ活動をしたいと考えている。
具体的な事業としては、以下の5つがある。- 日本のウェブアクセシビリティの品質レベルを維持・向上させていく事業
- ウェブアクセシビリティに関する普及啓発事業
- ウェブアクセシビリティをさらに向上させるための調査研究事業
- 関連機関及び諸団体との提携協力関係の構築事業
- 協会の目的を達成するために必要な事業
特に、「品質レベルを維持・向上させていく事業」については、改正JIS規格における適合評価への支援や長期的な視点での認証マーク制度に向けた活動を詳細に説明。
また、会員になっていただければ、その立場に応じて以下のようなメリットがあります。
- 政策・規制立案者は、民間の生の声を聞くチャンネル
- 利用者は、アクセシビリティに関する具体的な問題を提起する場
- 制作者は、アクセシビリティを確保するプロセスや技術についての知識の入手
- 提供者は、アクセシビリティを確保したサイトの提供
こういった形で役に立っていきたいと考えています。
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午後7時30分
渡辺隆行理事
「ウェブアクセシビリティの実現に必要な技術基準等について」まずはじめに、「Webアクセシビリティとは」といったところから、「JIS X 8341-3」や「WCAG 2.0」といった規格の役割とそれらを守らなければならない義務について説明をした。
そして、早ければ2010年の8月に官報公示される予定である「JIS X 8341-3:2010」について、改正原案の内容をベースに説明があった。
中でも、箇条3,4,6,7,8と附属書A,Bが特に重要と述べた。また、その特徴として、WCAG2.0との協調を強く示し、JIS X 8341-3:2004との連続性やJIS X 8341-1との整合性に注意しながら和訳し、策定していることを説明した。
改正原案の中身については、箇条7,8と附属書Aについて具体的に説明があり、
「箇条7 ウェブコンテンツに関する要件」については、WCAG2.0と同じ構成にて和訳していること、
「箇条8 試験方法」については、公共分野の調達仕様や評価において、この試験可能性を活用することが重要であること、
「附属書A(参考) この規格を満たすウェブコンテンツ技術及びその実装方法の選び方」については、日本の支援技術の対応状況に応じて実装方法を選ばなければならないことが重要であり、日本における“支援技術のアクセシビリティ サポーテッド情報”を調査する必要があることを説明した。最後に、現在、ウェブアクセシビリティ作業部会にて改正後のJIS X 8341-3をサポートする様ざまなドキュメントを作成していることを説明した。
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午後8時00分
意見交換
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1.調達の法制化についてお話がありましたが、調達となると公的機関のみの範囲となる。
公的機関以外への啓発・普及についてはどのように考えているか?(山田理事長)
アクセシビリティの確保については、義務や努力といった、それぞれの立場・レベルに違いがあるため、まずは一番重要な公的機関から進めていきたい。(渡辺理事)
まずはトップである、国の機関から進めていき、(他の分野への普及を目的とした)トップダウンを狙いたい。なので、調達の立法化が必要。 -
2.エンドユーザー(支援技術利用者)への(支援技術に対するリテラシー向上の)教育プログラムの策定をやる予定はあるのですか?
(山田理事長)
エンドユーザーが情報を取得できないといった事象は、提供者側が配慮できてないといったことや、エンドユーザーが利用している支援技術の機能を知らなくて情報を取得できないといったような、いくつかのケースがあるかと思う。
もし、情報が取得できないといった事象がおこった場合は、これらは何が原因なのかといった形で切り分けることでこういう対応をしようと考えている。(渡辺理事)
教育プログラムは普及・啓発の一環であると考えている。
活動としてやっていきたいなと考えている。 -
3.文部科学省に対して、教育(学校教育に取り入れるなど)といった分野においても普及・啓発を考えていってはどうか?
(山田理事長)
おっしゃる通り。若い世代に伝えていくことは非常に重要であると考える。
提案していきたい。(渡辺理事)
非常に興味がある。
長期的にはすごく効果があると思う。 -
4.活動範囲は、ウェブ限定なのでしょうか?将来的には?
(山田理事長)
差し当たりはウェブからを考えている。
最初から間口を拡げて活動するのは難しい。
法制化についても、ウェブのみか情報通信機器サービス全般も含むかについてもこれから検討していく。
今後は段階を踏んで、拡大していきたいと考えている。(渡辺理事)
ウェブが取っ掛かりやすい。
ウェブから始めて、拡げていきたい。(臼倉理事)
当協会の背景を説明。 -
5.
(ユニバーサロン岩下様)
ウェブは更新によって、1か月でころころ変わってしまう。
また、ウェブの技術についても日々変わっていく。
アクセシビリティの向上は日々続けていかなければならない。
これが大事であり、これを伝えたい。(山田理事長)
ヨーロッパでは認証において活発に議論が行なわれている。
例えば、ISO14000のようなプロセスの認証等もある。(渡辺理事)
改正JISについても、箇条6において、保守・運用について述べているが、不十分であると認識している。
そのプロセスについても今後どうしていくか重要であると思っています。
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お問合せ先
特定非営利活動法人ウェブアクセシビリティ推進協会事務局アドレス:info@jwac.or.jp